「隠蔽する(かくす)・・・」

  • 2013/06/14(金) 07:30:31

私の名前は湯河学 帝戸大学理工学部物理学科で研究を行い、物理学の教鞭をとっている准教授である。
非論理的な事が大嫌いで、世の中のあらゆる不可思議な出来事は全て科学で証明する事ができると信じている。
生徒や仲間内からはたまに「エジソン」などと呼ばれるが、決して私は発明家ではない、なのでできれば物理学者として名高い「「アインシュタイン」と呼んでほしいんだけれども、アインシュタインでは少々語呂が悪い・・・
なのでまぁそうだな・・・
呼びたい人は・・・  ふむ 「ガリレオ」な〜んてよんでくれてもかまわないぞよ ムフフフフ

「教授 もうまったく勝てないったらないわ」

そろそろ来る頃だろうと思っていた、彼女の名は吉高。
下品で粗野でがさつでうるさいだけの、脳ミソが少ない女なんだけれども、これでも私と同じ帝戸大学出身というのだから驚かされる。
しかもこれで警視庁の刑事というのだから世も末である。
いや、それを言えば品川や澤部ですら刑事という設定であるのだから、これが今のこの国のドラマの限界なのだろう。
以前は柴咲というもう少しまともな女性刑事がいたのだが、春からこっち「海外研修」という名の体の良い降板にあい、今はもういない

「教授 聞いてるの 全く本当にもう 今のスロットって全然出ないんだから
 4万よ4万 4万使って出たコインって言ったら たったの80枚よ80枚
 4万使って単発はないわ・・・」

准教授の給与などたかがしれたもの、ましてや赤ワインやブランドの服が好きな私は公然と「遊戯」という名のお遊びで、結構な額のお小遣いをちょいちょい稼いでいる。
当然天才の呼び声高い私が負けるわけがない。
それもこれもこういうバカのお蔭なので、こういうバカを近くで見るのは楽しくてたまらない。
とはいえ、それでも最近のスロットは、少し前に比べると格段に勝てなくなったのは確かである。

おっと そら〜大学の教授や刑事が、まさかパチンコやスロットをやったらいけない な〜んて決まりはあるまい、だろ。
ただそういう姿は小説やドラマでは描かれない、ただそれだけのお話しだ。
当然と言えば当然だが、この吉高とは良い意味でたまに寝る関係でもあるが、これも当然ここだけのお話しだ。

「っていうか教授 この日本プロ野球のボールの話し 超笑えるんですけど ププッ」

そういえば少し前に、知り合いの古田から頼まれて、どこぞかのピッチャーを科学の力で再生させたけれども、その後彼は元気でやっているのだろうか・・・

昨年までなら間違いなく打ちとったハズの打球が、今年はフェンスを超えていくのだからそら〜ピッチャーも驚くだろう、が、もっと驚くのはコミッショナーが知らぬ存ぜぬでなんとかやりすごそうとしているあの態度、驚きを通り越してもはや驚愕の域である。
あれでごまかせると思っているのだから、「人間バカほど怖い物なし」を地でいっているのだと思う。
ましてや一大事 レベルの事件を、これは不祥事ではないという認識、部下が勝手に大それた事をやっていたのならば、ましてやそれを把握出来ていないのであれば、世の中ではそれを「不祥事」と言うのだが、この国のNPBのコミッショナーは、一体全体どういう問題を「不祥事」と言うのか、一度聞いてみたいものである。

とはいえ問題は簡単だ
部下が上司をかばっているのか
部下に上司がなすりつけたのか
愚民の考える事は相変わらず理解不能である。

まぁ どこの世界にも間抜けはいて、我が身かわいさの「保身」の為に行った結果、より我が身を危険な目にさらすなどという愚をおかす輩は後をたたない。
世の中の嘘や大半の犯罪は、この自己中心的な「自己保身」という考え方から起きていると言っても過言ではない。

2000年に発覚した三菱自動車工業のリコール隠しなどは、まさにその良い例で、保身の為に隠した結果、その何十倍もの痛手をこうむったはずである。
そうそう最近では2012年に発覚したAIJに委託してた企業年金のほとんどが、実は消えてなくなってたとかは、まだまだ記憶に新しい出来事だと思う。

小さな嘘を隠す為にまた更なる嘘をつき、その嘘を隠す為にまた更なる嘘をつき、気が付けば後戻りできない所にまできてしまっている。そんな事なら最初からきちんと正直に申し伝えておいた方がよっぽど論理的な行為だと思うんだけども、バカはそんな事もわからないから「犯罪」のレベルにまでなってしまう。
いや、殺人も詐欺も暴行も、
テロですらその根本的な部分には、ただの自己を中心にした価値観が存在すると言えるのではないだろうか、一体全体いつから世界は「自分さえよければ良い」 そんな価値観が横行してしまったのだろう。
私の目指す科学は、これ全て人類の明るい未来の為の学問だと思っているのだが、もしかしたらこの価値観すら、自己満足の自己中心的な価値観かもしれない・・・

いや 正確には・・・ プロ野球の事など全く一切興味ない
ボールが飛ぼうと飛ぶまいと 全くそんな事は知ったこっちゃない
っていうか正直どうでもよい
つまりはまぁ 100%クソみたいな問題だ

が 考察すべきはそこではない
はたしてこの世界には、他にも隠ぺいされている出来事はないのであろうか・・・
重要なのはそこである。

アームストロングは本当に月に行ったのであろうか

NASAは宇宙人とのコンタクトに実は成功しているのではないだろうか

3億円事件の犯人は

アベノミクスの実態は実は

はっ・・・

ま まさか・・・

あ ありえない・・・

(いきなり地面に石で何か書き出すの図)

全ての謎はこれで解ける



じっちゃんの名にか・・・

一つの仮説が生まれた
そしてこの仮説をあてはめると、すべての謎が綺麗に解ける。

検証が必要だ

吉高 今から言う事を全て調べてほしい

「えぇ〜 なんでよ〜」

そういうクダリはもう面倒だからよさないか・・・
このドラマだからとかいう理由だけで
毎回毎回「お約束」みたいな事をやらされるとか
全く時間の無駄だし、非論理的だ

っていうか 警察バッチ使って 職権乱用してさっさと調べてこい






3日後

やはりそういう事か・・・
全ての裏付けはこれでとれた
が・・・
これはさすがに公表するわけにはいくまい
世の中が大パニックになるし、なにより今それを知っているのは私だけ、ならばそれを理解した上で立ち回れば
今以上に確実にオレだけが美味い汁を吸える

ましてやこんな事を公表したら
それこそ命がいくつあっても足りなくなるわ・・・


とはいえな
まさかまさか だよな
本当にこの世にありえない事はありえない だよな

とはいえよ
NPBがまさか全ての選手や客に黙ってボールを変えていた な〜んて事が平気で起こるこの世の中
まぁ これくらいの事は起きていても驚くには値しまい

まさかな
まさか5号機よりももっと激しい吸い込みの
もっと勝てない もっと面白くない6号機に
この春からの新台が全て変わっていたなんてな・・・

そら〜公表できまいよ

ってね・・・











この話しは実在するなんちゃらとは全く無関係のフィクションです とか・・・

さてと
どうせクソみたいな出来だとは思うけども
まぁまぁ「怖い物見たさで」
「真夏の方程式」でも見てみるかな
それともやっぱショックでかいからやめとくかな・・・

DVD待ちか それ以下のテレビ待ちか
レベル的にはその程度のもんだよな

ってか

「引継・・・」

  • 2012/11/30(金) 07:33:25

っていうかさ
普通1年じゃ〜ロクな仕事出来ないでしょ〜よ
それを1年で異動って
上のもんはな〜にを考えてんだか・・・

っていうかさ
現場の雰囲気理解するだけでも2〜3ヵ月かかるし
お得意様の顔 クセ 特徴
部下の性格 得手不得手などなど
そういうのようやく理解できて
ようやくぼちぼちこれからだな って矢先にこれだもん
最低でもやっぱ2〜3年はいないとさ
ロクな仕事なんて出来ないでしょ〜よ・・・

ここに来てようやく来年さ来年にかけてのビジョンが見えてきて
本当マジ いよいよこれから腰据えて頑張るか〜 って時に異動とかさ
まじテンション下がるわ
ってか
ようやくここもよくなってきたのにさ・・・

ってか次どこだろ
寒いとこはオレイヤだな・・・



あっ・・・

もしかしてアレか
あの事が上にバレたのか・・・

いやいやいやいや
それはない それはないと思うんだけども・・・

っていうかアレか
誰か上にチクッたとか・・・

あっ〜 それならあるあるだな
こう 新しい上司が気にいらないからさっさと追い出そう みたいなやつ
新入りイビリ みたいなやつ
あっ〜 あるあるっちゃ〜あるあるだな・・・

えっ〜
っていうかそこまでオレ嫌われてた感じ
まさかな・・・
っていうか誰に・・・

いやないだろ・・・

いや
あったのかな・・・

あったのか・・・

ってかマジで・・・
超自信なくすんですけど・・・

いやいやいやいや
まぁ 仮にそうだったとしてもだよ
野村監督とか栗山監督ならばだよ
そ〜んなコロッコロッ替えないで我慢して使うって
だろ
ダメな時でもそうやって根気よく我慢して使うからこそ
人は育つっつ〜のな
それをわかってない
わかってないんだよ ここの上のもんは・・・

レッズのペトロヴィッチだって今年そうしただろっつ〜のな・・・
だからこそこっちも期待に応えなくちゃ〜とか思って
余計に頑張るっつ〜のにから

まさかま〜た1年だもんな
本当ヤんなっちゃうよな・・・

もう少しこう 
本当我慢して使ってほしいわ
少しくらい多めにみてさ・・・


とはいえさ
よくよく考えてみたら
来年は来年でここにいても大変そうだしな

なんだっけアレ
あっ そうそう 消費税
あがんるんじゃなかったっけ 10月頃

あれはあれで面倒臭いよな
絶対いろいろゴタゴタするもんな

したらそれはそれでさ
まぁ ここにいて面倒な思いしなくてすんだ
そう思えばいいかな・・・

とはいえまぁな
結局は 決まったもんは仕方ね〜し
文句言っててもしょうがね〜からさ
まぁ トットと引継ぎ書とか書いちゃおう

えっ〜と

何があったかな・・・

あっ そうそう 夏にオリンピックとかあったあった

いや
その前に
冬から春・・・
春から夏・・・

あっ そうそう これからでっかいイベントあるんだよな

っていうかさ
このクソ忙しい時期に
奴等は本当な〜に考えてんだか

っていうかさ
どうせなら来年にすりゃ〜いいじゃんな
したら次の奴が見るからオレは楽できたのに
な〜んで今年やるかな
来年やれよな 来年
年内じゃね〜だろ年内じゃ・・・

えっ〜と
確か12月の16日当たりだったっけ

ってかさ
どうせオレいなくなるし
マジ超面倒臭い

ってかもう適当でいいかな
どうせいなくなる身だしな

うん
よし
本当申し訳ないけど 
本当まぁ 超適当にやらせてもらうって方向で

ってか 知らね〜よな
総選挙とか言われても・・・


っていうかさ
よくよく考えたら
ま〜だあと1ヵ月もあるし
引継ぎ書とか
暇な時に書けばいいかな

あっ
ここだけは先に書けるか

えっ〜と
辰年のタッちゃんから ミー君へ

っていうかさ
前回も次に来たのミー君じゃなかったかな・・・

いや
もう12年も前だからよく覚えてね〜や

っていうか言われてみれば
オレの前任者
今回も前もウー君だったような気がするけども・・・

あっ〜やっぱよく覚えてね〜や

っていうか まぁ 誰でもいっか誰でも

どうせいなくなるしな

まぁ オレみたいに1年で交代されるんじゃなく
まぁ 次のミー君にはせいぜい2年3年 
ここで頑張ってもらいましょ

ってか
オレが来る前のウー君は何年いたんだろ

っていうかそもそも
ウー君もミー君も
名前は聞いた事あるけど 会った事ね〜しね
どんな奴等なんだろう・・・

あっそうそう
来年はWBCとかもあるし
の割りにゃ〜断られたんでしょ イチローとかに・・・

プッ ミー君大変そう
まぁ そう考えれば
まぁ 今年1年でここ出ていけるから
まぁ いいかな〜 って方向で
前向きに考えよ

とはいえオレ
次はどこにいかされんだろうな・・・

寒いとこは本当イヤだかんな・・・
あったかいとこがいいな・・・

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およよよよ
今年も残りあと1ヵ月だとさ

いやいやいやいや
ここ最近の1年が過ぎるのの早い事早い事

恐らくだけどもここ4年くらい
多分オレだけ1日21時間くらいしかないと思うんだけども
みんなどう思う?
みんなはちゃんと1日24時間ある感じ?

もしくはオレだけ1年11ヵ月しかないとか・・・

とか・・・ 
言われましてもな・・・

「父の日に贈る物語・・・」

  • 2010/06/13(日) 08:07:42

 春に一番下の娘を嫁にやり、これで「父」としての仕事も8割方終わったなと思った。
後4ヵ月、来年の春に定年を向かえ、「社会人」としての役目も終わりを告げる。
残された人生は、この少しくたびれた妻の「旦那」としてだけ生きていけば良い、いや、ほんの少しくらいは「爺」としても生きなければならないか・・・
まぁ、残りの人生は、のんびり過ごせば、「人生の役目も」終わりだと思っている。
3人の娘を無事成し、育て、嫁に出し、会社でも最後は執行役員までいけた。
うん、中々上出来な方だったよな・・・
自分でもそう思っている。

 酒は好きだけも、それで家族に迷惑をかけた事はない
付き合い程度にゴルフはしたけども、実はそれほど好きではなかった
本音を言えばオレは野球が好きだったんだけども、息子がいなかったからキャッチボールをした事はない、心残りがあるとすれば、息子とキャッチボールをしてみたかった。
とはいえまぁ、もしかしたら孫とできるかもしれないし、それはそれで老後の楽しみの一つとなっている。

 昨年までは一番下の娘の響子がいたから、食卓にはたまに鍋が出てきたけども、今年は妻と二人きりだから、鍋などをしても年寄り二人食べきれる物でもなく、自然冬でも簡単な料理が中心になっている。
長女の優子は湯豆腐が好きだった。
次女の慶子はキムチ鍋が好きだった。
響子はおでんが好きだった。
優子が13、慶子が10の時に生まれた一番下の響子がどうしても可愛くて、ついつい今夜はおでんが食べたいと言ったのも今では懐かしい思い出となっている。
(今年はみんなが集まる日じゃないと 鍋 食べられないだろうな・・・)
残り4ヵ月で役目を終える執行役員などは、会社でもほとんどやる事がなく、クリスマス一色に染まった街を会社の窓から見下ろしながら、ふっとそんなつまらない事を考えたりしてしまった。
 そうそう毎日面白い出来事があるわけもなく、40年連れ添った妻とそうそう毎日何か話す事があるわけもなく、最近では会話もめっきり減ってしまっている。
娘が3人家にいた時は、毎日毎日うるさいとしか思わなかったけども、何も会話のない生活はやはり少し寂しいものである。
妻は決まったようにテレビを見ているけども、はたして何がそんなに面白いのかオレにはよくわからない・・・
いつも通りゆっくりと一杯やり終え、いつも通り「先に寝るぞ」と声をかけた21時過ぎ
ピンポーン 
突然家のチャイムが鳴り響いた
んっ、今頃誰だろう、回覧板には非常識な時間だし、こんな時間に訪問するような友人もいない。
少し不機嫌になりながら家の玄関を開けてみると・・・
「テヘヘッ 突然ごめんね・・・」
寝巻き姿のまま、そこには響子が寒そうに立っていた・・・

 正直響子が嫁に行く前日の晩以来、夕べは良く眠れなかった
「どうした?」
そうぶっきらぼうに聞いてみたものの、奥から妻が飛び出してきて会話をさえぎられてしまった。いや、妻にあんたはもう寝ろとほどこされて、仲間に入れてもらえなかった・・・
思うに家を飛び出してきたのだと思うけども、まぁ、そういう話しはあれだ、役目としては父よりもやはり母だよな・・・
いや、役目は母の物かもしれないけども、オレは父としてやはり純粋に心配なんだけども
今日家に帰ったら、響子はもういないだろうか・・・
一応出かける前に妻に「ゆっくりしてけって言っとけ」とは言ったけども、妻からは「ゆっくりしてられる場合でもないでしょ」などと、まぁ、適切な突っ込みを入れられたけども。家に電話でもしてみるか・・・
そうだ、おでんが久しぶりに食べたい、そう電話で伝えよう
いや、40年以上一緒にいるけども、そんな事を会社から電話した事は一度としてない・・・ どう考えても変だ・・・
どうせやる事ないし、体調不良って事にして帰ろうか・・・
いや、どうせなら今日などは最初から休んでしまえばよかったではないか・・・
響子はオレが帰ってもまだいるだろうか・・・
この寒い晩に寝巻きなんかで来て、風邪などひいたらどうするつもりなんだか・・・
そもそもがオレは響子の結婚相手にはアイツは今一よろしくないって思っていたんだ・・・
やはり夕べ、もう少し響子と話しをするべきだったのではないか・・・
あいつは夕べ、ちゃんと晩御飯は食べてきたのか・・・
そもそもやはりアイツとの結婚などは認めなければよかったんだ・・・
「今日は妙にソワソワされていますが、いかがなされましたか・・・」
慶子とおない歳の秘書に声をかけられて我にかえってみたものの
「この後、今日の予定はどうなっているかな?」
そう聞いた時にはもう、家に帰ろうと決めていた・・・
うん、もう今日は家に帰ろう・・・

 家に帰ると響子はまだ家にいた
内心ホッっとした
「お父さんどうしたの?」
「いや、少し体調が悪くてな、うん、やる事もないし、早退してきた」
「やだ〜大丈夫、歳なんじゃない」
「うん、まぁ、ここのところ忙しかったし、まぁ、疲れかな、大丈夫だよ」
いや、疲れてないし、忙しいわけもないんだけども
っていうか
心配してる娘に心配されてしまった
「お母さんは?」
「買い物」
いや・・・
娘と二人きりっていうのも、お父さんこれはこれで少しピンチだな・・・
いや、何をオレは自分の娘相手に緊張してるんだ・・・
「響子はいつまでいられるんだ・・・」
いや、こんな事を聞きたいわけじゃないんだが・・・
「しばらくいてもいいかな・・・」
「うん、まぁ、いつまでもいられては困るけども、まぁ、好きなだけいればいいよ、うん」
もう言ってる事がチンプンカンプンである・・・
(そっか、しばらくはいるのか・・・)

 今年初めておでんを食べる事が出来た
久しぶりに賑やかな食卓だった
響子が風呂に入っている時に妻には
「早退までして、いつまでたっても親バカなんだから・・・」と言われた・・・
「いや、本当に体調が悪かったんだ・・・」とは言ってみたものの、この40年で初めての早退・・・
絶対信用はしていないだろう。
「響子はどうなんだ?」とは聞いてみたものの
妻からは「まぁ、すぐに帰るんじゃない」とだけ返ってきた
「なんだ お前は心配じゃないのか?」と少し怒り気味に言ってみたら
「あなたよりも娘の事はわかってますから」とだけ返ってきた
うん、まぁそりゃそうだな・・・
「あなた、「自分の子供が信用できないのか」って口癖はどうしたの」
妻が意地悪そうな顔でこっちを見ているから、まぁ、聞こえないフリをする事にした・・・
まぁ、妻が平気だと言うのなら、恐らくは平気なのだろう・・・
そうだ
しばらく忘れていたけども
「心配するのが親の役目ではない、見守るのがオレの役目だ」
これがオレの親として、父としての格言であるのを忘れていた
響子もオレの娘じゃないか、何をオレは早退までして心配しているんだ
もうちゃんと嫁に出したし、成人して何年経っていると思っているんだか
うん、明日はちゃんと会社に行こう・・・
っていうかこの人、どうやら明日も休む気満々だったようだ・・・

 朝のチョコの散歩は日課の一つである
歳とると足腰弱るから、まぁ、毎日1時間のウォーキングをかねて行っている。
「私も散歩行っていい?」
実家にいる間は一度だって早起きなどした事ないくせに、響子が散歩についてきた・・・
「お前いくつになった?」(いや、こんな事が聞きたいわけではない)
「そっか、ってか、夫婦喧嘩とかよ、まぁ、たまにはいいんじゃないか、パパとママも昔はよくしたしな・・・」
響子は笑っている
「まぁ、あれだよ、まぁ、いつでも帰ってきたらいいし、まぁ、遠慮しないでいいし、あそこはいつでもお前の家だし、あれだ・・・ まぁ、オレはいつまでもお前のお父さんだから・・・ いや まぁ 誰かいないと鍋とかさ、食べられないからさ・・・」
「パパ、昔からおでん好きだったもんね」

 その日の昼休み、響子から携帯に電話がかかってきた。
「今夜も早く帰るから、久しぶりに何か美味しい物を食べに行こう」そう言うと
「お父さんごめんね、今からウチ帰るからさ、また今度ご馳走してよ、っていうかさ、心配かけてごめんね、まぁ、なんでもないから気にしないでって、まぁ、それだけ、じゃ〜ね、そうそう もう歳なんだから無理しちゃダメだよ また来るね、今度は旦那と一緒に来るから、ほいじゃ〜ね」ガチャ・・・
勝手に喋って切られてしまった・・・
しばらくいていいとか言っていたくせに、もう帰るのか・・・
せっかく久しぶりに実家に顔出したんだから、そんなに慌てて帰らないでもいいのにな・・・
っていうか、どうしてアイツはオレが帰るまで引き止めないかな・・・
せめて明日帰ればいいじゃんな・・・
今夜も一緒に食事くらいしていけばいいのにな・・・
もう少し話したかったのにな・・・
あ〜あ、やっぱり今日も会社休めばよかった・・・

良く晴れた冬空を会社の窓から見上げながら
不謹慎にもそんな事を思うのであった・・・

あっ おでんまだいっぱい残ってるな、今夜もおでんか・・・
実はさ、ここだけの話し
オレそんなにおでん好きじゃないんだよな・・・

                    終わり

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
子として42年、父として5年が過ぎた
まぁ、父の気持ちもようやくわかる年齢になった今日この頃だ・・・

「絆」っつ〜言葉があるけども
まぁ 恐らくこの言葉は
親が想う子供への愛情であり信用であり信頼であり
またそれを受けた子供だけが
逆に親への絆を感じるのかな〜 とかね
まぁ、そんな事を思ったりもする今日この頃・・・

子供達に願う事は
実はそんなに多くはなくて
むしろ親孝行してほしいとかね
そんな事を願ってる親なんかいるわけないわけで
むしろそんな事は気にしないでいいからさ
まぁ、本当幸福になってくれれば
まぁ、それが一番の父の幸福かな〜 とかね
それが一番の願いなわけだよ・・・
ってか
それ以外に願う事なんてね〜だろ・・・

きっと20歳になっても30歳になっても40歳でも
結婚しようと子を産んでも
いや
死ぬまでさ
親は親だし
子は子だし
父は父だと思うし
恐らくは
オレの父もオレも
ここに出てきたお父さんのような人であると思うんだ

お父さんっつ〜のはね
子供を想う時には
すごく強くもあり とても情けなくもあり
今回はそんな情けない一面を持つ
でも子を何よりも思っている
そんな父を書いてみました

ってか
母の方がよっぽど強いんだよね・・・

あんたらはさ
我が子なんだからよ
いつでもここに帰ってきていいんだよと・・・
いつまでもオレの子供なんだよと・・・
いつまでもオレはあんたらのお父さんなんだよと・・・
きっと父はそう伝えたかったのだと思います

さてと
酒でも持って実家に顔でも出そうかな・・・
っつ〜か
最近は子供のオレよりも
孫見る方が嬉しいみたいだからな・・・

「母の日に贈る物語・・・」

  • 2010/05/09(日) 07:38:29

 母の日はそもそも好きではない、それでもまぁ、母ではない妻に花を買って帰ろうと思ったのには理由がある。
今年中学2年生になる娘と、小学5年生の息子がお金を出し合って、妻に内緒で手袋を買った事を、久しぶりに一緒にお風呂に入った息子から、夕べコッソリと聞かされたからだ。まさかオレが手ぶらで帰るわけにも行くまい・・・ ケーキも買って帰れば完璧かな、そんな事を孝平は思いながらケーキ屋さんへの足取りを急いだ。

 今年37歳になる孝平は、元から母の日が嫌いだったわけではない。いや、16歳までは、人並みに母の日という行事と接していた。つまり、張り切って感謝するのは照れくさいけども、何もしないわけでもない、一応の感謝の形としてカーネーションくらいはコッソリ贈る、まぁ、その程度にはこの行事と付き合っていた。
当然父の日には何もしない、そんなありふれた普通の高校生だった。
 
 16歳になってまもなくの7月、ようやく鬱陶しい梅雨も明け、夏休みを楽しみにしている頃、このどこにでもいるありふれた高校生の孝平は、どこにでもいるありふれた高校生ではなくなる事になる。
母が、父以外の、孝平の知らない男とこの街を出ていってしまったのである。

 ゴミをゴミ箱に捨てるように、母に捨てられた高校生・・・
孝平が母の日を嫌いになったのは、この歳からである。

 若くして孝平を生んだ母は、孝平の中では36歳で止まっている。いや、母が36歳の夏に、事故で死んだ事になっている・・・ そう思っている・・・
同年代の友達のお母さんと比べて、今でも若く美しい人だった、そう思っている。とても自慢の母だった、今でも孝平はそう思っている。
「どうして僕を捨てたんだろう?」
それはなるべく考えないようにしている。
どうせ答えはわからないし、理解も出来ないししたくないし、いつも最後にはとても悲しくて、不愉快で泣きたくなるから、だから考えないようにしている。
父を責めた事もある、父に問い詰めた事もある、父に問題があった可能性もある。でも今ではどうでもいいと思っている。父はオレを捨てなかった、それだけで感謝している。

 恋愛中に一度、妻から「母を憎んでいるか?」と聞かれた事があったけども、なんて答えたのか覚えていない・・・
会いたいと思う時もあったし、二度と会いたくないと思った時もあった。
憎んだ時もあるし、憎むだけ無駄だと諦めた時もあった。
恨んだ時もそうでない時も、悲しかった時もそうでなかった時もあった。
孝平自信、母に対する思いはその時その時で違い、それすらも今はもう考えるのをやめてしまった。
母に対する全ての思い出や感情を孝平は意識して、意識の奥底にある、厳重な引き出しの中に鍵をかけてしまってしまった。二度とその引き出しをあける事はない、そう思うようにしてきたのである。

 それでもやはり考えてしまう。
妻がいて、子供達がいて、今を幸福だと思う孝平は、やはり自分という存在をこの世に誕生させてくれた人の存在を考えてしまう。幸福でいられる理由を考えてしまう。
オレが努力したからか?
いや
努力できるだけの根本的な原因、つまりは産んでくれた人がいたからだ・・・
じゃ〜母に感謝しているのか?
わからない・・・
わからないから考えるだけ無駄である。
だから考えない。これがいつも孝平の答えとなる。

 生きていれば57歳か・・・
会社の経理の田中さんと同じ年齢だ・・・
孝平はこの経理の田中さんを「母ちゃん」と呼んでいる、いや、孝平だけじゃなく部長も課長もみんな、社長までもが母ちゃんと呼んでいる。
もしもいま母がいたら、オレはなんて呼ぶんだろう・・・
「母ちゃん」かな
やっぱり「お母さん」かな
さすがに「ママ」とは呼ばないよな
ちなみに父の事は「あんた」と呼んでいる、あれ以来お父さんと呼ぶ事が出来なくなってしまった。父もオレの事は「お前」と呼ぶ、孝平と名前で呼ぶ事を、やはりあれ以来しなくなってしまった。

 家に帰り、少しのサプライズを受けた妻がケーキを切っている時に、この時間には珍しく電話が鳴った。娘が出るとすぐにオレに受話器を持ってきた。
「オレだけど、母さんから手紙が来たんだけど、お前宛の手紙もあるんだけど、読むか?」
「今日は帰り遅いから」毎日のようにそう言って出勤した父は、それと同じトーンでオレにそう告げた・・・
一瞬何言ってるのかわからなかった・・・
母は死んだはず・・・ いや、死んではいないのか・・・
手紙?
手紙だって・・・

 近所のコンビニで働いていた母は、いつも5時半に帰ってきた。オレはいつも自分の部屋で「ただいま〜」と言う母の声を聞いていた。その日は6時になっても7時になっても帰ってこなかった。父が帰宅しても母は帰ってこなかった。さすがに心配になった父がコンビニに電話をし、いつも通りに帰ったと告げられて、警察に電話をしようとした矢先に、オレは、母からの手紙を鏡台の上から見つけた。思い出したくもない手紙の中身は、とっくにオレの頭の中から消去してしまったが、一緒に離婚届けという物が入っていた事を覚えている。

 あの日の朝、母は、オレは、それまで何回も何十回も何百回も何千回も、毎日毎日当たり前のように繰り返し言ってきた
「行ってきます」「いってらっしゃい」をした。
それが母との最後の言葉だ。 
いつも通りの笑顔で、いつも通りの声で、いつも通りの「いってらっしゃい」だった。いつも通りにオレは高校に行き、いつも通りに母が作ってくれた弁当を食べ、珍しく弁当箱を高校で洗った・・・
いつもしない弁当箱を洗ったから、だから母は帰ってこなかったのかもしれないと、オレが病気で高校を休んだら母は捨てなかったのかもしれないと、行きに事故でにでも合えば、ケガでもすれば、忘れ物をして家に戻れば、もしかしたら母はいなくならなかったかもしれないと、何度も何度も何度も何度も、オレは自分のそのどうしようも出来なかった行動を悔い、反省し、責め、どうしてあの日、いつもと変わらず家を出てしまったのか、何度も何度も後悔した。
今でもあの日の事を夢に見る。あの日の朝の全ての出来事を夢に見る。
母がいなくなるから引き止めろ、そう思っているのに、毎回夢の中のオレは今以上に無力で、何度も何度も同じ過ちを繰り返してしまう。
今朝も、同じ夢を見た・・・
母からの手紙・・・

「あなたどうしたの?」

妻からの言葉で我に返った

「お義父さんなんでしょ? 大丈夫?」

今 夢を見ていたのかもしれない・・・ 

妻がハンカチをそっと差し出す

何?
えっ?
もしかしてオレ
泣いているのか・・・

「わかった」
それだけを電話に告げるとオレは電話を切った、その足で自室に行き、少し冷静になろうと試みた

頭がグルグルする・・・
涙が止まらない・・・
心臓がドキドキいっている・・・

あっ
瞬間に理解した・・・
オレは
母に会いたかったんだ・・・
もうずっとずっと何年も前から
もうずっとずっと 
母に会いたくて会いたくて会いたくて
ただただ母に会いたくて
母という存在に恋焦がれ
触れたくて
話したくて
もうずっと前から母に会いたかったんだ
それを気づかないようにして
存在を否定して
心の奥底に閉じ込めて
そうやって何年も何年も前から
自分を騙して生きてきたんだ

オレは
オレは・・・
母にすごく会いたかったんだ・・・
それを頭が勝手に理解してしまい
とめどなくとめどなく涙が溢れてくるんだ・・・

オレは・・・
どうしたらいいんだろう・・・

手紙は読みたいけど、読みたくない・・・
読めば母を許してしまう
いや
もうずっと何年も前から許している自分に
改めて気がつかされてしまう

会いたい、でも会いたくない
会いたくない
いや
とてもとても会いたい
とてもとても会いたい
母に会いたい
会いたい・・・

男と出ていった事も
オレを捨てた事も
そんな事はもうどうでもいい
今はただ
ただただお母さんに会いたい
お母さんに会いたい・・・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがき

この話しはこれで終わりです・・・
手紙の中身もこの後の展開も着地点も
きちんとオレの中では完成してますが
それは「物語」としての完成であり
ドラマなら本来ここから面白くもなるんだけども
それはただの物語の「説明」にすぎないかな・・・ みたいな・・・
書きたかったのはそういう説明じゃないし・・・ みたいな・・・
なので
この後の展開は
皆さんのご想像にお任せします・・・

テーマや思いや伝えたかった事
書きたかった事
それは恐らく
これで充分伝わっていると・・・
これで終わりにする事がベストだと・・・
まぁ、そう思います・・・

オレはこういう性格なので
ちゃんと終わりはハッピーエンドで
誰も傷付かない
誰も悲しまない
誰も不幸にならない
そういう終わりなので
まぁ、そういう方向で想像してくださいませ・・・

さてと
たまには母の顔でも見に行くかな・・・
ちゃんとカーネーションを持ってね・・・

「虹の欠片を集めて・・・最終話」

  • 2010/05/05(水) 07:17:05

そして全ての欠片が集まる・・・

 ミズホが異変に気がついたのは本当に偶然にすぎなかった。座る台のない客が店内に溢れかえっている月に一度の大盛況のイベント、昨日の売上不振を取り戻す以上にコーヒーを売った帰り、社員専用の出口を出て、ママが乗らなくなった軽まで歩く途中何かを聞いた気がしたのだ。
んっ?
ケンカかな・・・
ミズホは暗い先に目を凝らすと、少し離れた場所で誰かが襲われている・・・
(大変)
「誰か助けてっ〜」ミズホは大声で叫んだ・・・

 んっ?
今 助けてって聞こえたぞ・・・
今日もジャグラーで5000枚出す事が出来ず、車の中で反省をしていたシンジがハッと我に返り車を出てみると、確かに女の人が助けを叫んでいる声が聞こえる。急いで声のする方向に走り出す。
「どうしたのっ」
「あそこで誰か襲われる」
シンジは彼女の指指す方を見ると、確かに誰かが倒れているのが見える。
「君は店に戻って誰か呼んできて」
それだけを言うと、シンジは倒れている人に走り出した。

「おじちゃん 大変」
この店でコーヒーを打っている娘が血相をかえて換金所のガラスを叩く。
「誰か襲われてる」
寺田の脳裏には、つい先ほど8万8千円分の景品と一緒に、ポッキーを差し入れしてくれたいつものお嬢さんの顔が思いうかんだ。
「どこだっ」
「あっちっ」
コーヒーを売っている娘の名前を寺田は知らないけども、彼女の指さす方向は駐車場の奥である。
「君は店長を呼んで来なさいっ」
寺田は換金所にカギをかけると、駐車場の奥へと急ぎ走り出すのであった。この緊急事態にもカギをかける事を忘れなかったのは、さすがに年の功なのだろう。

 店内は閉店30分前、客も大分減っている。それでもしつこく未だ現金投資している客を横目に見ながらミズホは
「店長どこっ?」かなり焦っていたのだろう
一番最初に目についた清掃のオバサンに声をかけた
「そんなに慌ててどうしたの?」
ほぼ毎日顔は合わせているが、あら、この娘と話しをするのは初めてじゃないかしら・・・
ヨシコは暢気にそんな事を思った。
「誰かが襲われてるっ」
何?
さすがヨシコ、ミズホの何倍も苦労して生きてきた証、とても冷静だ
「どこ?店長は私が呼ぶからあなたは警察に連絡して、携帯持ってるんでしょ」

1時間後
店内の事務所にみんないた
事情聴取を終えた警察は、すでに帰っていた。
犯人はどうやら、毎日勝っている、しかも女性客の財布を狙った犯行らしい。

店内のビデオを確認し、すでに犯人はわかっていた。

「みなさん すいませんでした・・・」
みんな始めてこのお嬢さんが美帆と言う名前である事を知った・・・
「いえ、みなさん本当にありがとうございました・・・」
中学校の先生をしているらしい・・・

「いや、大事に至らなくて何よりですよ」店長の本田である
「うん、すぐに犯人は捕まるから、もう心配ないよ」換金所の寺田である
「全く自分が勝てないからって、こんな若いお嬢さんの財布狙うなんて、酷い奴もいたもんだね」清掃のヨシコである
「ケガ大丈夫?」コーヒーレディのミズホ
犯人はミズホが大声を出したので、何も盗らず逃げ出したらしい
「・・・・・」シンジは緊張して声をかけらないらしい・・・
犯人に押されて倒れた時、少し手首をひねった美帆は、すぐにシンジが来て「大丈夫ですか」と声をかけてくれたとき、少し安心して泣きそうになった。
シンジは、まさか倒れていたのが憧れの彼女とは思わず、一瞬にしてどうしていいかわからず固まってしまった。
スグに換金所の寺田が来てくれた時、美帆はいよいよ恐怖から開放された安心感でメソメソ泣き出してしまった。
シンジも何故か助かったと思った。

さてと、それじゃ〜我々は仕事が残ってますのでと本田が言った時
シンジが、それはそれは生まれて初めての勇気を振り絞り
「大事がなくて何よりでした・・・」と言った
「あなたが来てくれて本当に助かりました、本当に怖かったんです」と美帆
「よ、よ、よかったら、夜ももう遅いので、お、お、お、送らせてください・・・」シンジは心臓が飛び出すような緊張を押さえ、本当に本当に勇気を振り絞って言った・・・
「でも、私も車なので・・・」美帆が言う
「そうですか・・・」シンジがっかり・・・ でも少しホッ
「じゃ〜私送ってもらおうかしら」そう言ったのはなんとヨシコである・・・
「私も一応女だし、もう遅いでしょ、女の一人は危ないでしょ」ヌケヌケとそう言った。
まさかこの流れでシンジ断る事はできまい・・・
本田と寺田は苦笑いを浮かべながら事務所を出て行ってしまった。
それじゃ〜今日のところはこれで、私達も帰りますか
ミズホが元気に言うと
「でも、今度は歩いて来ますので、その時は送ってください」
美帆は社交辞令なのか本気なのかわからない言葉をシンジに言うと、すぐにミズホと事務所を出て行ってしまった・・・
「えっ?」彼女の後を追って出て行こうとするシンジにヨシコが
「すぐ着替えてくるから、あんたはもう少しここで待ってないさい」と言って更衣室へ向かってしまった。
(参ったな・・・ 本当にあのおばちゃん、家まで送ってくのかよ・・・)
そう思うシンジは、それでも気持ちは晴れていた、彼女の名前がわかった事、仕事がわかった事、ほんの少しだけども距離を縮められた事、それがとても嬉しかった。
5000枚出せていないけど・・・ 
でも今度会ったら食事に誘ってみよう・・・
そう思うシンジは、一層このホールとスロットと、ここで働く全ての人と全ての客に、何故か感謝をするのであった。

     おしまい

「虹の欠片を集めて・・・第五話」

  • 2010/05/04(火) 07:46:31

寺田

 「フッ〜」寺田は小さな部屋の中で溜息をついた。
仕事と呼べるほどの仕事ではなく、とはいえ一時たりとも気は抜けない、むしろいつも監視されているこの小さな部屋の中は、なんとも異様な空間である。
とはいえ寺田もこの業界は長く、ましてや今の職場は開店以来から働いているため、そこまで気を張り詰める必要もない事を知っている。
「ま〜た、千葉で襲われたんだってね・・・」
朝から夜までの当番の久米婆さんが、隣で新聞を読みながら話しかけてくるが、寺田は毎度の事返事はしない。いや、長い付き合いの久米婆さんが、自分に話しかけているわけじゃない事を寺田は知っている。
世の中不景気だし、失業率も高く、働きたくても中々働く場所がない。結果住む場所を追われ、食べる物にも事欠く人が大勢いる今の日本。あげくパチンコの景品交換場を襲うとか、全く割りに合わない強盗だと寺田は思う。確かにここにはイヤってほどのお金がある、が、これだってギャンブルというそれなりのリスクを犯して初めて手にいれる事ができるわけだし、むしろここのお金と、この小さな5000円の価値もない小さな箱を得る為に、はたしてどれくらいのお金をみんながこのホールに落としているいるのか、寺田には手にとるようにわかっている。

 夕方の7時から閉店まで寺田はこの狭い部屋の中にいる。だけど寺田の本当の仕事はその後に行われる。早い時はほんの5台、1時間もかからず終わるし、今日などは恐らく6時間以上はかかるだろうと覚悟している。
明日はこの店の月に一度の大きなイベント。はたしてどれくらい釘を開けるのか、寺田はまだ知らされていない。
とはいえこのイベントの本気度は高く、恐らくは相当数の台の釘をいじる事になるし、スロットも相当の数の台の設定を入替える事になる。

 この今では考えられないくらい大きくなったチェーン店のホールも、実は先代の社長と寺田の二人で立ち上げた物である。本社でも知る人ぞ知ると言う人物である寺田は、この店で誰よりも高い給料をもらっているけども、元来欲のない寺田は、その給料の大半の使い道に困っている。いや、だからこそこのチェーン店の経営も今の会長に譲ったのであるが、恐らくそんな事は今の店長の本田も知らない事だろう。

妻が生きていればな・・・

 老後は悠々自適にあちこちを旅行しようと約束していた妻は、長男が結婚すると同時にあっけなく逝ってしまった。
これから楽しい時間を送るはずだったのに、なんとも切ない話しである。
結果貯えも、今の収入も全く意味のない物となり、せいぜいが孫にお小遣いをやる程度だが、まだ小学生の孫にやるお小遣いなどは、まぁ、たかがしれている・・・

「おじちゃん、今日はチョコの差し入れだよ」
「今日も勝ったのかい?」
ほぼ毎日換金所に換金に来るこのお嬢さん、歳は26〜7歳だろうか。
毎回換金の度に余り玉でもらうチョコやお菓子を、景品と一緒に客との唯一の連絡の手段であるこの箱に入れてくれる。
「だめだめ、今日は完全に回収だもん」
「明日イベントだからね・・・」
「うん、明日は勝つんだからね」
まだ若いこの女性客は、ここにに来る女性には珍しく派手でもなく、かといって地味なわけでもなく、いつもキチンとしたツーピースを着ている。
どんな仕事をしている人なのか検討もつかないけども、仕事帰りのOLさんにしてはとても化粧が薄く、何よりすごく品がある・・・
「もう遅いんだから気をつけて帰りなさいよ」
「うん、ありがとうね」
寺田はたまに、このお嬢さんが若い頃の妻に似ていると思う時がある。
笑顔なのか、雰囲気なのか話し方なのか、何かはよくわからないけども、何しろこのお嬢さんと話すと、少しだけ気持ちがホッとする。

 (さてと)
閉店が近い、これから一番ここが賑わいを見せる時間帯である。
寺田は小さくなるお嬢さんの背中を見送りながら、もう一頑張りするかなと思うのだった。

      つづく

「虹の欠片を集めて・・・第四話」

  • 2010/05/03(月) 07:14:21

ミズホ

「フッ〜 ちかれたちかれた・・・」ミズホは喫茶コーナーに戻ってくると誰にともなく独り言を呟いた。
ホットありありと、アイスコーヒーのなしなし。
いつものスケベオヤジと、メガネの常連さんの注文である。
手馴れた手つきでコーヒーの準備をすると、ミズホは再び広いホールへ戻って行った。
ってか、この人達な〜にがそんなに楽しくて、毎日毎日ここでパチンコしてるのかね・・・ 
暇なのかね・・・ 
お金持ちなのかね・・・ 
ミズホには、職場であるパチンコとかスロットの面白さが全然理解できないでいる。
とはいえ、まぁ、世の中いろんな趣味あるし、いろんな人いるから面白いんだよね。
と、これは友達のミカの受け売りである。
ミカとは中学の頃からの友達であり、高校の頃から一緒に「コスプレ」をする仲間でもある。
「ミズホの制服可愛くていいな・・・」よくミカはそう言っているけども、なにをなにを、1日中あなた、この煙りの中歩き回ってごらんなさいよ。
可愛いコスプレするには足が太くなっちゃうっちゅ〜のって言ったら、そは困るわっって笑いながら言っていた。
とはいえミズホはこのバイトが嫌いではない。
元々身体を動かすのは苦ではないし、昨年高校卒業と同時に働く予定だった会社でも、どうせコピーやお茶酌み、事務の仕事だっただろうし、それを考えれば卒業間近に、この不況で内定の取り消しをされてよかったとすら思っている。
リーマンショックだっけ??まぁ、なんでもいいや・・・
お陰でここで気楽に働けるから、ミズホはそのリーマンに感謝している気持ちすらある。
 ママはミズホがここで働くのをあまり好ましくは思っていない、でもパパは、今の不景気を考えると、経験にもなるし何もしないよりはマシだろと言っている。

最低でも後10ヵ月は頑張るぞっ!

 ミズホには目的があった。
仕事の内容の割りにはコンビニよりも高い時給をくれる、このコーヒーレディを始めてそろそろ17ヵ月。
手取りで17万円に満たない給料だけども、ミカが就職した会社は手取りで13万円とちょっと、安くてヤになっちゃうとミカは言っていた。私も今頃あそこに勤めていたら、きっとその程度だったんだろうなと思うと、尚更リーマンには感謝してしまう。
ママはこの仕事をよく思っていないけど、それでも家に毎月2万円入れている。
3万円は貯金して、5万円を目標の為に積み立てて、残りは携帯とか服とかのお小遣い、それほど貧乏でもないかなとミズホ自身は思っている。
今積み立ては85万円、後50万円貯まったら・・・
自分の車買うんだ・・・
それがミズホの当面の目標である。
「うん、目標の為に頑張る私、素敵・・・」

 チラッと腕時計を見る。
(あと1時間か・・・)
明日大きなイベントがあるこの店は、今日は比較的すいている。結果的に今日の売上はすごく低い。
時給で働いているミズホにとって、コーヒーが売れようと売れまいと基本的には全く関係ないけども、やはり売れないと少しガッカリしてしまう。とはいえ逆に、明日は大勢のお客さんがこの店に来て、明日はきっとすごく忙しくなるはずである。
「ご苦労様ね、ホットもらえるかしら・・・」
「はいっ」
いつもの常連さんなので、一々砂糖とミルクを聞くような事はしない、この女性の常連さんはホットなしなし。
ミズホはあまりここにいる女性客を好ましく思っていないけども、この常連の女性客だけは別である。ここににいる女性には珍しく派手でもなく、かといって地味なわけでもなく、いつもキチンとしたスーツを着て打っている。
(何してる人なんだろ?)
普通のOLさんにしてはとても化粧が薄く、何より他の女性客よりも品がある・・・ こんな素敵な人でもパチンコなんてするんだな・・・ 違った、この人はピエロの絵が書いてあるスロットか・・・
「お待たせしました」ミズホがコーヒーを置くと
「ここのコーヒーおいしいのよね、あなたが煎れてるの?」
毎回何かしか気さくに話しかけてくる。
この前は伝線したストッキングに気が付いてくれて、自分の代え用のストッキングをくれた事もある。嫌味な人や下心のある人にはよく話しかけられるけども、この人は根っから優しい人なんだろうなとミズホは思っている。
「はいっ」やはりコーヒーを褒めてもらえるとお世辞でも嬉しい。
「明日も来るからまたコーヒーお願いね」
「はいっ ありがとうございます」
やっぱり明日のイベントには参加するんだ・・・
 ミズホには兄がいるけども、あまり仲はよくない、どうせ兄弟がいるのなら、こんなお姉ちゃんがほしかったな・・・

 さてと もう一回りするかな・・・
ミズホはペコリと頭を下げると、壁に貼り付けられた台がどこまでも続いているホールの奥へと歩き出すのであった。

      つづく

「虹の欠片を集めて・・・第三話」

  • 2010/05/02(日) 06:00:55

本田

 「フッ〜」本田は休憩室で小さな溜息を吐いた。
開店前の朝9時に、副店長の小林が急病で休みたいと言う電話をしたきた。
明日のイベントを考えると今日の日中はさほど忙しくはない、とはいえ今日の夜の事を思うと本田は気が重くなった。

 若い時にあまり真面目じゃなかった本田は高校を卒業していない。
20歳の時に今の妻と出会い、真面目に生まれ変わろうと決心した本田は、何しろ仕事を探そうとアチコチに面接に行ったが、ロクに高校も出ていない人間に、世の中はそうそう甘くはなかった。
なんとかこのパチンコ屋にアルバイトで入る事が出来た時は、パチンコ屋なんてロクでもない仕事だと思ったけども、それでも頑張ろうと思ったものである。
22歳の時に社員になれ、なんとか今日まで真面目に頑張り続け、ようやく昨年店長にまでなれたが、この大手のチェーン店であるパチンコグループにおいて、中卒のオレがこれ以上上にいける事はない事も知っている。一方では業績を伸ばせなければ、またスグに降格される事も知っていた。
「フッ〜」本田は溜息なのかタバコの煙を吐いただけなのかわからない息を吐いた。

「今日は清美の誕生日だから、今日くらいは早く帰ってあげてね・・・」
今朝出かける時に妻に言われた言葉が思い出される。
早番が9時〜6時、遅番が14時〜23時などと一応決まってはいるけども、店長になって以来、ちゃんと定時で帰れたためしはない。
アルバイトやパートには当然残業代は支給するけども、社員の、しかも店長に残業代を支給してくれるほどこの業界は甘い物ではないし、昔の悪友から聞くところによると、普通の会社でもサービス残業は当たり前らしいのでそれ自体を気にした事はなかったけども、今日くらいは早く帰ってやりたかった。
それが本田の本音である。

「よりによって明日は月一の強いイベントだからな・・・」
スロットの設定打ち換えをまさか主任に任せるわけにもいかず、この台数の多いパチンコのクギも、寺田さん一人でってわけにはいかない。
本田はまた溜息をついた・・・

 妻の義父に、中学しか出ていない事は気にしないでいいと言われた時、本田は不覚にも涙をこぼした。
その変わり残りの人生の全てを、娘と、娘が産む家族の為に一生懸命働き、時間を費やし、必ず幸福にしろと言われた。
貧乏でも良いと言ってくれた。アルバイトから社員になれた時も義父はとても喜んでくれた。今ではヤクザをやってる友人を除いては、同世代の人と比べてもそこそこの収入をもらっているという自負はあるけども、その変わり、家族との時間はとても減ってしまった・・・

「店長、元気ないぞっ」
ホールを回っている時に声をかけてきたのは常連のお客さん。名前は知らない。
出てないとか、店の文句とか、いろいろな人にいろいろな声はかけられるけども、大概は文句や苦情、悪意に満ちているけども、この女性はそのどれでもない。
まだ若いこの女性客は、ここににいる女性には珍しく派手でもなく、かといって地味なわけでもなく、いつもキチンとしたツーピースを着て打っている。
どんな仕事をしている人なのか検討もつかないけども、仕事帰りのOLさんにしてはとても化粧が薄く、何よりすごく品がある・・・
まだ25〜6才だろうか・・・
「今日は調子どうですか?」
珍しく本気の笑顔で対応できる数少ない常連客である。
「またまた〜 今日の調子なんて私より店長の方がよっぽどわかってるじゃない」
確かに今日は回収である。負けてても気さくに普通に話しかけてくるこの女性客を、本田はたまに本気で可愛い人だなと思う時がある。
「明日のイベントはガッツリ出しますから」
「期待してるわよ」
あまり仲良く個人とだけ話しをするわけにはいかない、何しろ他の客の目もあるし、サービス業、接客業とは名ばかりの、ここは博打場にすぎないからだ。
 本田はどんなお客様にも笑顔で対応するけども、やはりこういう業界に集まる客の中には、それだけでは済まない客も大勢いる。むしろ恐らく、大概の客にはこの笑顔が作り物である事などは見破られている事だと思う。
それでもこの女性客だけは、素の自分で対応できてしまうから不思議である。
とはいえまさか、当然だがこの女性客にだけ特別扱いをするような事はしない。
 
 来週の休みにディズニーランドにでも連れてっ行ってやるかな・・・
夕方に今日も遅くなる事を妻にメールで知らせた。
(さてと・・・)
本田はさっきまでの重い気持ちを振り払い、また顔には仮面のような笑顔を張り付け、明日の準備の確認に事務所に戻るのだった。

    つづく

「虹の欠片を集めて・・・第二話 」

  • 2010/05/01(土) 06:19:27

ヨシコ

 「フッ〜」ヨシコは更衣室で制服に着替えながら小さな溜息をついた。
とはいえヨシコの溜息は癖みたいなものである。いや、ヨシコはもう疲れている事に慣れきっていた。
「私が着るには派手な制服よね・・・」ヨシコは誰もいない更衣室で誰にともなく一人呟いた。
時刻は17時前、今から会社帰りのサラリーマンで混む時間帯である。
朝の6時から15時までは近所のコンビニで働き、夕方から閉店後まではこの店で清掃のパートを行う。
若い頃は旦那に連れられてこういう場所でデートした事もあったけど、10年前旦那に先立たれた今、ここういう場所はあまり好きにはなれなかった。
当時はまだパチンコ屋と名乗っていたギャンブル場は、今頃はどうやらホールとかアミューズメントとか呼ぶらしいけども、ヨシコにしてみたらやはりただのパチンコ屋にすぎない。
それでもここで働いている理由は、単に時給がよいからである。
来年60歳になるこんなオバちゃんに、時給1100円もくれるのは、よほどこの店がもうかっているのか、たんに時間に融通の効く、清掃する人がいないのか・・・ とはいえヨシコには理由などはどうでもよい、頑張ってここで後2年は働かなくてはならない、それだけにすぎない。
ここでは大勢の人間が、簡単にお金を使うけども、ヨシコにとっての1万円はとても大金である。

あと2年・・・

 旦那に先立たれたヨシコに残されたのは、わずかの貯金と二人の息子だけだった。
泣いている暇はなかった、悲しんでいる暇もなかった。ただただ働いた。二人の息子を立派に育てるためだけに、ヨシコは昼夜を問わず働きづめに働いた。後2年で下の新吾が大学を卒業する・・・
そうしたら少しは、ゆとりがもてるかもしれない。
いや、生涯生活にゆとりなどは持てないだろう、でも・・・
でも、肩の荷は下りる・・・
片親で、女手一つで二人の息子を大学まで行かせたら、天国であの人もさすがに褒めてくれるだろう、ヨシコは息子よりも世間よりも旦那に褒めてほしかった。ただただそれだけの為に無我夢中で働いてきた。

 どうして自分で飲んだ缶ジュースの缶とか紙コップを捨てないのかしら?常々ヨシコはそう思っていた。自分の出したゴミくらい自分で片付けるのが人としての常識なのに、どうしてパチンコをしている人はそのままなんだろう?ヨシコの中の素朴な疑問である。
とはいえ、だからこそそれを片付けるだけで時給1100円ももらえるんだけどもね・・・
「おばちゃん、いつもご苦労様・・・」
この仕事場で私に声をかけるのは、店長の森田さんと換金所にいる寺田さんと、この若いお客さんだけである。
つまりは客で私に「ご苦労様」なんて言ってくれる人はこのお嬢さんしかいない。
上の息子の賢吾と同じ歳くらいかしら・・・
ここににいる女性には珍しく派手でもなく、かといって地味なわけでもなく、いつもキチンとしたツーピースを着て打っている。
どんな仕事をしている人なのか検討もつかないけども、仕事帰りのOLさんにしてはとても化粧が薄く、何よりすごく品がある・・・
「今日も勝ってるみたいね」
「明日大きなイベントだもん、今日はダメよ・・・」
明日は月に一度の大きなイベントの日か・・・ 
道理で今日はお客さんが少ないと思った。
「明日も来るのかい?」
「明日もこの台打つんだ」
毎回毎回このお嬢さんは、変なピエロの絵が書いてあるスロットを打っている。
「じゃ〜頑張ってね」
「おばちゃんもね」
私をただの労働者としてじゃなく、一人の人として丁寧な言葉をかけてくれるこのお嬢さんを、ヨシコは好ましく思っている。
ほんの10秒にも満たないこの会話で、ヨシコは随分救われている。

 さてと
明日はこのホールで月に一回の大きなイベント。きっとお客さんも大勢来る事だろう。
(明日は忙しくなるね・・・)
ヨシコはそう思い、(さてと・・・)
「今日はあと2時間頑張らないとね・・・」自分自身に言い聞かせるように、再び黙々と働くのであった。

       つづく

「虹の欠片を集めて・・・第一話」

  • 2010/04/30(金) 07:30:28

シンジ

 「フッ〜・・・」 シンジは小さな溜息をついた。
時刻は20時過ぎ、今日で3日連続の残業をしているシンジは入社5年目の27歳。
現在の不況を考えると、シンジがここに入社できたのは、幸運な年代の最後だったと自分でも思っている。
あと生まれるのが1年遅かったら恐らくは、この会社には入社できていなかったであろう・・・ 
現に入社5年目になるシンジは、この会社では未だに一番の新人である。
「そろそろ終わりにするか」
シンジは誰もいない社内で誰にともなく一人呟いた。
「そろそろ行かないと明日の下見が出来ないからな・・・」
一人っ子で大事に育てられたシンジは、人よりも少しおっとりしているというか、優しいというか、何しろ同僚や上司に仕事を押し付けられてもイヤな顔一つするでもなく、今日で3日続けての残業である。
「彼女でもいればな・・・ オレも花金に残業なんかしないのにな・・・」
いや、今頃金曜日の事を「花金」とか・・・ お前古いから・・・
(同僚のタケルと慶子は今頃美味しい物でも食べてるのかな・・・)
一人そんな事を思いながら帰りの仕度をするシンジであったが、実はシンジにも憧れている女性がいる。
「今夜もいるかな・・・」
どうやらその彼女の事を思い浮かべたらしく、さっきまで残業をしていた重い気持ち、疲れた表情から一転、シンジは急に明るい表情になった。

明日こそ・・・

 人付き合いが苦手なわけではないが、昔から大勢で騒ぐのが好きではなかったシンジの唯一の趣味は、学生の頃に憶えたスロットである。その性格が表しているように打つ機種も昔からコツコツ増えるAタイプ、特にジャグラーが好きだった。
「彼女は何をしている人なんだろう・・・」
週に2〜3回、仕事帰りに寄るホールに彼女はいる。
やはりシンジ同様いつもジャグラーを打っている。
ホールにいる女性には珍しく派手でもなく、かといって地味なわけでもなく、いつもキチンとしたツーピースを着て打っている。
仕事帰りのOLさんにしてはとても化粧が薄く、何よりすごく品がある・・・
週末は朝から打つのがシンジの唯一の楽しみであるが、もう1年以上前から、打つ楽しみ以外に彼女を見かける事が嬉しくてそのホールには通っていた。
「同じ歳くらいかな・・・」
スロットを打つ楽しみ以上に、週末には彼女の私服を見られる事が楽しみで、週末になると足しげくホールに通う自分。その目的がいつの間にかスロットよりも彼女の存在だという事に気がついたシンジはその日以来、密かに心に決めている事がある。
「ジャグラーで5000枚出したら、彼女に告白する」

 機械割設定Δ任癸隠娃機鵑離献礇哀蕁爾韮毅娃娃伊臀个后△海譴いかにハードルの高い事か、そこそこ賢いシンジに当然わからないわけではない。
だからこそそれで良いと思っている。それくらいの高いハードルを越えなければ、とてもとても彼女に声をかける、ましてやいきなり告白する事なんてできる訳がない、シンジはそう思っている。
いや、それくらいのミラクルが起きなければ、告白しても無理に決まっている、当然目標は告白ではない、仲良くなる事だ、その為にはやはり、朝一高設定に座る、しかも終日展開にすごく恵まれ神の引きを見せる、それくらいの引きがなければ、彼女に告白しても無理に決まっている、だからこそ・・・
だからこそジャグラーで5000枚出す必要があるのである。
とはいえそう決意してから、かれこれ1年以上・・・ 
もしもこのまま5000枚出せない時は・・・
きっとそれは、彼女とは縁がなかったのだろうと思おうと思っている。
それが神様か恋の女神か知らないけども、まぁ、止めておけと言っているのだろうと、そう思おうと思っている。
でもまだチャンスはある、彼女は未だ一人でホールを訪れ、オレもまだこのホールで打っている、だからまだ天はオレを見放してはいない、彼女と縁があるのなら必ず、必ずオレには5000枚出す事が出来るはず・・・ シンジは毎週末そう思い、ただひたすらジャグラーを打っているのである。

明日こそ・・・

 明日はこのホール、月一の大きな信頼できるイベント。きっと彼女も打ちに来るだろう。明日こそ5000枚出してやる。いや、5000枚出して彼女に告白してやる。
その思いを胸に、シンジは急いでホールに下見に行くのだった。

             つづく